近年、韓国の若者の間で海外就職を志向する動きが活発化しています。韓国産業人力公団のデータによると、2023年の海外就職者のうち29歳以下が4,314人と、全体の約79%を占めています。
本記事では、最新のデータと情報をもとに、彼らが海外を目指す理由を「就職難と賃金格差」「教育の影響」「政府支援」「海外労働環境」という4つの観点から解説します。この傾向を知ることで、グローバル人材市場の変化について考える一助となるでしょう。
国内の就職難と賃金格差の問題
韓国の若者たちが海外でのキャリア形成を積極的に模索するようになった要因は、主に「国内の就職難」と「賃金格差」にあると考えられています。
国内就職市場の厳しさ
韓国の大学生の正社員就職率は約20%にとどまり、国内での就職が困難な状況にあります。2023年の有効求人倍率は0.58倍で、日本の1.31倍と比較すると半分以下の水準です。若者の失業率も高く、韓国統計庁「経済活動人口調査」によると15~29歳の層では5.9%に達しており、厳しい競争環境が続いています。
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賃金格差と雇用条件
韓国の平均賃金はOECD平均の91.6%に達し、日本を上回る水準ですが、賃金格差は依然として大きな課題です。特に、男女間の賃金格差は31.2%で、OECD加盟国中最大となっています。また、企業規模による賃金格差も顕著で、大企業労働者の平均所得は中小企業労働者の2.1倍に達しています。正規職と非正規職の間でも、1時間当たり賃金に1.4倍の差が見られます。
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グローバル志向と教育の影響
韓国では、若者の海外就職を支える要因として、グローバル志向を育む教育制度と多言語能力の習得が挙げられます。韓国がグローバル志向を強化した背景には、1997年に発生したアジア通貨危機があります。この危機を契機に、韓国企業は生き残りをかけてグローバル化を推進するようになったそうです。そして、早期教育や大学のプログラムが重要な役割を果たしています。
第2節 アジア通貨危機後の韓国における構造改革 – 通商白書
早期外国語教育と国際的な視野
韓国の一部の小学校では、1年生から英語を正規科目として導入し、中高ではさらに強化されています。また、SELHi(ソウル英語特別化高校)のような英語特化校も設置されており、学生たちは早期から国際的な視野を養う環境にあります。
さらに、大学レベルでは英語講座がほとんど必修科目となっているだけでなく、海外インターンシップや交換留学プログラムも充実しています。これにより、学生たちは実践的な経験を通じて外国文化を学び、国際的な競争力を高めています。
多言語能力がもたらす国際競争力
韓国の若者の多言語能力も、海外就職を容易にする要因の一つです。英語に加え、日本語や中国語などの多言語能力を持つ韓国の若者は、国際ビジネス環境での競争力を発揮しており、こうした能力が需要の高まりにつながっているようです。
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政府の支援と海外就職エコシステム
韓国では、若者の海外就職を支援するために政府主導でエコシステムを構築しており、その中心となるのが「K-MOVE」事業です。この事業と関連する政策や取り組みが、海外志向を促進しています。
K-MOVE事業による海外就職支援
「K-MOVE」事業は、韓国政府が若年層の海外就職を支援するために2013年に開始したプログラムです。それ以前から各省庁が個別に行っていた海外就職支援を統合し、より効率的で包括的な支援を可能にしました。
この事業では、
1.海外就職に対する機運醸成
2.就職活動に向けた準備
3.就職活動
4.就職後の韓国人材に対するアフターケア
まで、一貫した支援が行われています。
なかでも、海外での就職を希望する青年に対して、主に語学研修と業種ごとの職務教育研修プログラムをセットで提供するとともに、研修後の就職支援から就職後のフォローアップまでを一貫して担う「K-MOVEスクール」は、K-MOVE事業の柱です。2013年に発足した事業で、直近3年間(2021~23年)における累計研修者数は8,406人となっています。
公民連携のエコシステム公民連携のエコシステム
韓国政府の取り組みは公的機関にとどまらず、大学や民間企業との連携によって強化されています。たとえば、KOTRA(韓国貿易投資振興公社)は、世界各地の拠点を活用して海外企業のニーズを掘り起こし、韓国産業人力公団は国内での広報やスキル向上プログラムを提供することで、両者が連携して若者の海外就職を後押ししています。
また、大学は現地のニーズに応じたカリキュラムを提供し、学生の海外就職を支援する産学連携の取り組みを進めています。このように、韓国全体で若者の海外就職を支えるためのエコシステムが形成されています。
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海外での魅力的な労働環境
多くの若者が海外でのキャリア形成を選択する理由として、海外企業の提供する魅力的な労働環境が挙げられます。特に給与や福利厚生の充実、効率的で柔軟な働き方が、韓国人材を引きつけています。
高い給与と充実した福利厚生
海外企業、とりわけアメリカやヨーロッパの企業は、韓国国内よりも高い給与を提示することが一般的です。例えば、アメリカのビッグテック企業では、韓国国内の同等のポジションに比べて最大で3倍の給与が支払われるケースもあるそうです。さらに、スキルアップや成果に応じたボーナス制度、家族を対象とした福利厚生が充実しており、長期的なキャリア形成を目指す人材にとって魅力的です。
特に、アメリカ政府が発行するEB-1およびEB-2ビザの人気が高まっており、韓国人のEB-1・2ビザ取得者は2016年以降、毎年4,000~6,000人を維持しています。コロナ禍の2021年には3,318人に減少しましたが、翌年には5,514人に再び増加し、2023年には5684人の韓国人がこれらのビザを取得しました。この数は人口比で見ても中国やインドを大きく上回っており、韓国からの高度人材流出(ブレイン・ドレイン)が深刻化していることを示しています。
柔軟で効率的な働き方
海外企業では、韓国のような長時間労働に頼らず、効率性を重視した働き方が一般的です。リモートワークやフレックスタイム制度を導入する企業が多く、仕事と生活のバランスを重視する韓国の若者にとって大きな魅力となっています。また、職場での創造的な雰囲気や、失敗を恐れないチャレンジ精神を尊重する文化が、韓国人材の挑戦意欲を引き出しています。
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韓国人材から日本が選ばれる理由
ではなぜ、海外就職のなかから「日本」が選ばれるのでしょうか?当サイトの記事の中でも度々ご紹介してる内定者インタビューや日本企業に就職し社会人生活をスタートさせた韓国人材へのインタビューでよく聞かれる主な要素をまとめてみると、
日本が好き
ー旅行や留学で訪れて、人を思いやる文化に感動した
ー日本のアニメが好きで日本語を学んでいたから
日本企業の魅力に感動
ーモノづくりが丁寧に行われている
ー韓国国内の就活では問われないポテンシャル採用に共感した
ー自分の実力を試す場として積極的に業務に取り組めると感じた
ー世界的に有名な企業から中小企業でも業界内で強い競争力を持っている
ー大学時代の専門分野が異なる職種でも1から丁寧に教育していただける制度に感動
韓国に近い
ー距離的に近く安心感がある
ー韓国料理やK-popが馴染んでおり韓国を身近に感じられる
などが挙げられます。
また、日本貿易振興機構(JETRO)が昨年末に公開したレポートによると
- 日本語を使って仕事をしたい。
- 日本で5~10年間働いた経験を次のステップに生かしたい。
- 日本だからこそ学べることを学びたい。
- 入社後の手厚い社員研修や、新入社員を育てる日本の企業文化の中で成長したい。
- 韓国に近い国で働きたい。
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/0304/75e15da98190f0fb.html
というアンケート調査が出ています。
まとめ
韓国の若者が海外でのキャリア形成を目指す理由は多様で、国内の課題や教育、政府支援、海外の労働環境が複雑に絡み合っています。特に、国内の就職市場の厳しさや賃金格差は大きな要因となっており、加えて、グローバル志向の教育環境や政府の積極的な支援も重要な役割を果たしています。また、海外の柔軟な働き方や充実した福利厚生も若者にとっては魅力的な要素です。こうした背景を理解することで、グローバル人材市場の動向をより深く知る手がかりになるでしょう。そして、韓国人材が海外を目指す傾向はこれからも続くと考えられます。今後も引き続き、グローバル人材市場の変化に注目が集まるでしょう。