日本企業が韓国人材を採用する際に「書類選考の難しさ」に直面することが少なくありません。韓国と日本では、就職活動のスタイルや求職者の価値観が異なるため、適切な対応が求められます。本記事では、書類選考のポイント、内定フォローの強化策、さらに韓国人材のキャリア志向の特徴について詳しく解説します。
書類選考のポイント
韓国では学歴や資格が重視される傾向があり、日本企業に適した候補者を見極めるためには、以下の点に注目することが重要です。
1. 新卒/既卒の概念の違いに注意
韓国では大学卒業のタイミングが2月と8月の2パターンあり、それぞれの人数に大きな違いはありません。また韓国では就職活動前にインターンシップへ参加したり、資格取得のためにIT系の専門学校で勉強をする学生も多く、大学卒業後に就職活動を始めることが一般的です。実際に現在KORECに登録している学生を見てみても、在学中の学生が44.8%、既卒の学生が55.2%を占めています。新卒ではない、または既卒であるからという理由で絞り込んでしまうのは望ましくありません。
2. 年齢にとらわれない
上記の通り、韓国人採用においては日本人学生の採用活動ではあまり見かけない年齢層の応募者が多数存在しています。この傾向はごく普通のことで、平均して韓国人男子学生は6~7年間、女子学生は5~6年間大学に在籍しており、日本のように4年で卒業する学生は極めて稀と言えます。その背景として、韓国人男性には兵役の義務があり、大半の男性が大学1年生から2年生になるまでの間に約2年間休学して兵役に行くことが挙げられます。さらに競争社会の同国においては、前述した通り個々のスペックを高めるために、就職活動前に積極的に留学やインターンシップへ参加をしているということも、在学期間が長くなっている要因の一つです。むしろ日本より長い在学期間の「経験内容」に注目する必要があるでしょう。
3. 自己紹介書の重要性
韓国の就職活動では、履歴書に加えて「自己紹介書」が必須です。自己紹介書には志望動機やキャリア目標が詳細に記され、採用担当者が候補者の価値観や仕事への姿勢を知る重要な材料となります。自己紹介書を通じて「なぜこの企業を志望したのか」「どのような経験を活かせるのか」を評価することで、より適切な人材選びが可能になります。
4. 大学名だけで判断しない
韓国ではソウル大学・高麗大学・延世大学(SKY)がトップ大学とされていますが、実力のある大学が他にも多く存在します。例えば「韓国科学技術院」はSKYほどの知名度や認知度はないものの、工学と科学技術の専門家を養成するために作られた国立大学であり、韓国内ではSKYと同等レベルのポジションにあります。こういったことを認識せず、大学の知名度のみで判断をした結果、思いがけず高い能力を持った学生を落としてしまったということに繋がりかねません。
実際、2023年の韓国雇用情報院の調査では、企業が採用した韓国人材の約35%がSKY以外の大学出身者でした。日本企業が優秀な人材を確保するためには、韓国国内の大学情報を正しく把握し、総合的に評価する視点が重要です。
5. 語学スコアの過信に注意
韓国ではTOEICなど語学スキルを証明するために、スコアを履歴書に記載するのが一般的ですが、高得点=高い実務能力とは限りません。例えば、2022年の韓国労働研究所のデータでは、TOEIC900点以上の人材のうち、実務英語が求められる場面で十分に対応できる割合は約60%にとどまるとされています。実際の業務に必要なスキルを測るためには、面接時に英語や日本語でのコミュニケーション能力を確認することが重要です。
6. アルバイト・インターン経験を評価する
韓国では、新卒でもインターンやアルバイト経験を積むことが重要視されています。2023年の韓国雇用労働省の統計によると、韓国の大学生の約78%が卒業前にインターン経験を持つとされています。そのため、書類選考時に実務経験の有無をチェックし、単なる学歴・資格ではなく、実際にどのような業務に携わったか、成果を出した経験があるかを評価することがポイントになります。
韓国人材の採用では、日本の基準だけで判断せず、履歴書と自己紹介書の特性を理解し、学歴・資格だけでなく実務経験やキャリア志向を重視することが重要です。適切な評価基準を設定することで、より優秀な人材の確保につながります。
韓国人材の内定フォローを成功させるポイント
1. 内定から入社までの期間を調整
日本企業の採用プロセスは比較的長く、内定から入社までの期間が数ヶ月に及ぶことも珍しくありません。その間に、韓国の求職者は他社のオファーを受け、条件の良い企業へと流れてしまうケースが多いです。2023年の韓国雇用動向レポート(Korean Employment Trends Report, 2023)によると、韓国人材の内定辞退理由の約45%が「他社のより良い条件を受けた」ことによるものとされています。特に韓国では、外資系企業や大手企業が短期間で内定を出す傾向があり、迅速なオファー決定が重要なポイントになります。
2. 給与・待遇を明示
韓国の求職者は給与や福利厚生を非常に重視し、条件が不明確な企業のオファーには慎重になる傾向があります。例えば、2023年の韓国採用動向調査(Korea Recruitment Survey, 2023)では、韓国人求職者の約65%が「給与や待遇の説明が不十分な企業のオファーには慎重になる」と回答しました。また、韓国では年俸制が一般的であり、基本給に加えてボーナスや手当を含めた総額で交渉が行われます。そのため、具体的な給与構成や昇給の見込みを明示しないと、候補者に不安を与え、内定辞退につながる可能性が高くなります。
3. キャリア成長の見通しが明確に
韓国では、企業の安定性やブランド力だけでなく、キャリアアップの機会を重視する求職者が多いのが特徴です。2023年の韓国労働市場レポート(Korea Labor Market Report, 2023)によると、韓国人求職者の約58%が「企業の成長機会やキャリアパスが不明確な場合、他社を検討する」と回答しています。特に、日本企業の「年功序列型の昇進制度」や「ジョブローテーション文化」は、韓国の求職者にとって馴染みがなく、キャリアの見通しが不透明に感じられることがあります。採用時には、入社後の具体的なキャリアプランやスキルアップの機会を示し、求職者が将来のキャリアを描けるような情報提供が重要です。
韓国人材のキャリア志向と働き方の特徴
1.キャリアアップ志向が強い
韓国では転職がキャリア形成の一部と考えられており、長期的に同じ企業で働くよりも、より良い条件やスキルアップの機会を求めて転職するのが一般的です。2023年の韓国労働市場レポート(Korean Labor Market Report, 2023)によると、20〜30代の労働者の約45%が「5年以内に転職を検討している」と回答しています。特に、IT・金融・コンサル業界では転職サイクルが短く、スキルや経験を積んだ後により良いポジションへ移ることがキャリアのスタンダードになっています。そのため、日本企業が韓国人材を採用する際には、長期的なキャリアパスを示し、社内で成長できる環境があることを伝えることが重要です。
2. ワークライフバランスを重視
韓国ではかつて長時間労働が当たり前とされていましたが、近年ではワークライフバランスを重視する傾向が急速に高まっています。2022年の韓国HRトレンド調査(Korean HR Trends, 2022)によると、求職者の72%が「柔軟な勤務体系やリモートワークの有無が企業選びの重要な要素」と回答しました。特に若年層やIT系の人材は、リモートワークやフレックスタイム制度を重視する傾向が強いです。日本企業が韓国人材の採用・定着を進めるには、柔軟な働き方を導入し、休暇取得の促進や残業の削減など、ワークライフバランスを意識した制度を整備することが求められます。
3.給与・キャリア成長の明確な提示を重視
韓国の求職者は、給与や昇進の透明性を非常に重視します。日本企業の「年功序列型」の給与体系は、韓国の求職者にとって魅力に映らないことが多いため、昇給や昇進の基準を明確に提示することが重要です。2023年の採用・雇用調査(Recruitment & Employment Study, 2023)では、「企業が昇給の基準を明確にしている場合、求職者の応募率が35%向上する」と報告されています。特に、成果主義の評価制度やボーナスの仕組みを具体的に示すことで、韓国の求職者に安心感を与えることができます。また、日本企業の「曖昧なキャリアパス」も、韓国人材の採用において障壁となることがあります。そのため、入社後の成長機会や昇進のプロセスをしっかり説明し、求職者が自身のキャリアプランを描けるようにすることが重要です。
韓国人材の最新採用トレンド&データ分析
韓国の最新の雇用市場動向と求職者の意識調査データを基に、日本企業が韓国人材を採用する際に役立つ情報を提供します。具体的なデータと参考文献を交えて、韓国の転職市場の動向、求職者が求める働き方、応募時に重視する情報について解説します。
1. 2024年 韓国の転職市場の動向
韓国統計庁が2025年1月15日に発表した2024年の雇用動向によると、15歳以上の就業率は62.7%で、前年から0.1ポイント上昇しました。特に30代、40代、60歳以上の就業率が上昇しています。 一方、若年層(15~29歳)の就業率は46.1%と0.4ポイント低下しました。また、2024年9月時点での15~64歳の就業率は69.9%と過去最高水準を記録し、失業率は過去最低の2.1%となっています。 japanese.joins.com+1jetro.go.jp+1japanese.joins.com+1jil.go.jp
2. 韓国人材が求める働き方ランキング
韓国経営者総協会が2023年9月に実施した調査によると、リモートワークを実施している大企業は58.1%で、前年の72.7%から減少しています。 業務効率の低下やコミュニケーション不足を懸念し、リモートワークを縮小する企業が増えています。しかし、求職者の間では柔軟な働き方やワークライフバランスを重視する傾向が強まっており、週休3日制を希望する声も高まっています。 bwell-i.comhrclub.daijob.com
3. 韓国人求職者が応募時に重視する情報
韓国人材の海外就職先として、2021年には米国が日本を抜いて首位となりました。 求職者は給与やキャリアパス、企業の成長性などを重視しており、特にキャリアアップやスキル向上の機会を求める傾向があります。また、企業文化や職場の雰囲気も重要な要素とされています。jetro.go.jp
これらのデータを踏まえ、日本企業は韓国人材の採用戦略として、柔軟な働き方の導入やキャリアアップの機会提供、企業文化の透明性を高めることが重要です。また、最新の雇用動向を把握し、求職者のニーズに合わせた採用活動を行うことで、優秀な人材の確保につながるでしょう。
まとめ
韓国人材の採用を成功させるには、書類選考のポイントを押さえ、内定フォローを強化し、キャリア志向の違いを理解することが不可欠です。さらに、文化に配慮した対応を行うことで、優秀な人材の獲得と定着率の向上することを実現できます。本記事の内容を参考にしながら、韓国人材の採用プロセスをより効果的なものにしていただけると幸いです。
参考文献
- Korea Employment Information Service, 2023. 韓国人材市場の最新動向。
- Korean Labor Institute, 2022. 韓国の語学スコアと実務能力に関する研究。
- Ministry of Employment and Labor, Korea, 2023. 韓国の大学生のインターンシップ実態。
- Korean Employment Trends Report, 2023. 韓国の求職者のキャリア志向。
- Korea Recruitment Survey, 2023. 韓国の給与交渉と企業選びに関する調査。
- Korean HR Trends, 2022. 韓国の労働市場におけるワークライフバランスの変化。
- Recruitment & Employment Study, 2023. 企業の透明性と求職者の応募率の関係。
- 韓国政府が2024年の雇用動向を発表(韓国) | ビジネス短信 – ジェトロ
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