韓国で若者の「運転免許離れ」が加速? その背景と新しい価値観

かつて韓国の若者にとって、大学修学能力試験(スヌン、수능)後の運転免許取得は社会に出るための「通過儀礼」とされてきました 。しかし近年、その常識は大きく変わりつつあります。運転免許の新規取得者、特に若年層が顕著に減少しており、その背景には単なる経済的な問題だけでなく、都市インフラの発達やライフスタイルの変化などが複雑に絡み合っています。本記事では、統計データから見る韓国の若者の運転免許離れの実態やその背景にある主な理由について深く掘り下げて解説します。

若者の運転免許離れの現状

韓国における若者の「運転免許離れ」は統計上、明確な傾向として表れています。韓国の警察庁の統計や報道によると、2020年から2023年にかけてのわずか3年間で10代の新規免許取得者は約20%、20代は約30%も急減しました。この傾向は、日本の20代後半の運転免許保有率が依然として80%以上の高い水準を維持している点とは対照的です。

この需要の急激な落ち込みは、関連産業にも直接的な影響を及ぼしています。2020年第1四半期から2024年第1四半期にかけて、韓国内の運転免許教習所の数は約7%減少しており 、若者の価値観の変化が市場構造そのものを変え始めていることが伺えます。

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免許を取得しない・できない3つの理由

1:経済的負担:高騰する費用と現実的な選択

    若者が免許取得をためらう最大の障壁は、経済的な問題です。第一に、取得費用そのものが高騰しています。韓国の運転免許教習所の受講料は70万ウォン(約7万4000円)から、場所によっては83万ウォン(約8万8000円)以上に達することもあります。

    第二に、免許取得後も続く車両の維持費です。自動車保険料、税金、燃料費、定期的なメンテナンス費用など、年間で数十万円にも及ぶ継続的なコストが発生します。物価高と経済の先行き不透明感が広がる中、これらの負担は非常に重くのしかかります。

    このような経済的圧力に対し、20代の新車購入台数は前年比で12%減少し全世代で最大の減少率を見せました。その一方で、コストを抑えられる中古車市場でのシェアは維持されており、韓国の若者のシビアな金銭感覚が表れています。

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    2:代替交通手段の発達:自家用車を持たないライフスタイル

      特に人口が集中するソウル首都圏では、自家用車に代わる高度に発達した移動手段が車を持たないライフスタイルを後押ししています。

      まず挙げられるのが、公共交通機関の圧倒的な優位性です。ソウルの公共交通システムは世界的にも最も効率的で、清潔かつ安価であると評価されています。広範囲をカバーする地下鉄網、網の目のように走るバス路線、そして交通カード一枚で乗り換えが可能なシステムが、日々の移動を快適なものにしています。近年この流れを決定づけたのが、首都圏広域急行鉄道(GTX)の開通です。この高速通勤鉄道はソウル郊外からの通勤時間を劇的に短縮しました。利用者からは「以前は延新内(ヨンシンネ)からソウル駅までバスで40分、地下鉄で35分かかっていたが、GTXでは5分で到着する。通勤時間が大幅に短縮され非常に満足している」といった声が寄せられています。

      さらに、シェアリングエコノミーの台頭も大きな要因です。「SOCAR」や「Green car」といったカーシェアリングサービスは、車の所有に伴う経済的・時間的負担なく、必要なときだけ利用できる利便性を提供しています。さらに、共有電動キックボードや自転車といったパーソナルモビリティ(PM)が、駅やバス停から目的地までの「ラストワンマイル」の移動を補完しており、自家用車を持たない生活をより一層便利なものにしているのです。

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      3:価値観の変化:「所有」から「体験」重視へ

        このトレンドの背景には、より深い文化的・心理的な変化があります。韓国のMZ世代は、モノの「所有」よりも、旅行、自己投資、趣味といった「体験」を重視する傾向(YOLO:You Only Live Once)が強いとされています。多額の費用と維持管理の手間がかかる車は、ワークライフバランスや個人の幸福を優先するこうした価値観と相反するものと捉えられがちなのです。

        かつて成功や富の象徴であった車は、その絶対的な地位を失いつつあります。代わりに彼らの価値観は、自らの信念を消費行動で表明する「ミーニングアウト」などで表現されます。例えば、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視するブランドを積極的に支持するなど、倫理的な消費が新たなステータスとなりつつあります。

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        まとめ:変化する「大人」の証明と企業が留意すべき点

        韓国における若者の運転免許離れは、経済合理性、テクノロジーの進化、そして価値観の変容という3つの要因による社会変化と言えるでしょう。この変化は、運転免許がもはや「大人」や「社会人」になるための必須の「通過儀礼」ではなくなったことを意味します。MZ世代のアイデンティティや能力はデジタルリテラシー、SNSでの自己表現、体験の重視、そして倫理的な消費選択といった、より多様な手段によって示されるようになりました。

        こうした韓国社会の変化を踏まえると、採用の場面において運転免許の有無を候補者の多様な価値観を理解する一つのきっかけとすることが重要になるでしょう。彼らが何に価値を置き、どのように自己を表現するのかに目を向けることが、企業の将来を担う優秀な人材とのより良い出会いに繋がるはずです。