2025年7月28日に更新された朝鮮日報の記事で韓国の大学生が最も就職したい企業ランキングが発表されました。 韓国に本社を置く半導体メーカーであるSKハイニックス が初の1位に輝きました。昨年は9位だった同社が、今年は8ランクも上昇し、一気にトップを奪取した背景には、「満足のいく給与・報酬制度」として上半期の月給の150%を“激励金”として支給するなど、破格の待遇があると分析されています(インクルート調査、対象:全国の大学生1,176人。時価総額上位170社から選定)。本記事では、ランキング全体の動向と上位企業の人気理由を整理しながら、韓国の若者の就職観の変化を読み解き、さらに日本企業にとっての示唆を考察していきます。
ランキング全体の傾向
今回のランキング上位には、SKハイニックス、サムスン電子、カカオ、ネイバーといった韓国を代表する大手企業が名を連ねました。ここから見えてくるのは、韓国の大学生が強く関心を寄せているのは”グローバル展開が可能で、成長性の高い産業”であることです。
特に1位であるSKハイニックスや3位のサムスン電子に代表される半導体産業は、韓国経済を支える中核であり、世界市場でも高い競争力を誇ります。学生にとっても「安定と将来性を兼ね備えた就職先」と映っているといえます。
また、IT・プラットフォーム分野からはカカオ(6位)、ネイバー(4位)がランクインしました。これらは若者の生活に密着したサービスを提供しており、”自分たちの生活を便利にするサービスをつくる企業で働きたい”という共感性も人気を押し上げる要因です。
さらに、CJ ENM(2位)やCJ第一製糖(5位)、オットゥギ(9位タイ)のように食品・エンターテインメント産業も上位に食い込みました。これらの企業は”福利厚生の充実”や”業界内でのリーディングカンパニーとしての安定感”が評価されており、給与だけでなく働きやすさや企業文化が就職先選びに大きな影響を与えていることを示しています。
全体的に韓国の若者は「経済的に将来性があり、かつ自分の生活や価値観に直結する産業」に高い関心を持ち、その中でも待遇や福利厚生の手厚い企業を選好する傾向が強まっているといえます。
ランキング上位企業の詳細分析
1位:SKハイニックス(7.1%)
半導体メモリの世界的リーダーであり、インテルNAND事業買収など積極的な投資を続けるSKハイニックス。急浮上の理由としては、「報酬制度の魅力」が挙げられます。具体的には、上半期の月給150%を“激励金”として支給するなど、景気変動が激しい半導体業界においても成果還元が明確であることです。また、AI・半導体人材の世界的需要増を背景に「安定的かつ成長性あるキャリアが築ける企業」と見られている点も大きいです。技術志向と待遇が直結しているため、特に工学系学生や男性の人気が高い企業となっています。
2位:CJ ENM(6.7%)
韓国最大級のエンターテインメント企業。映画、ドラマ、音楽、メディア事業を幅広く展開している企業です。人気の理由としてm「福利厚生の手厚さ」が挙げられます。具体的に、産休・育休制度、柔軟な勤務環境、社員向けの文化体験機会などが充実しています。また、映画やK-POP、ドラマなどコンテンツ産業での存在感は、エンタメ志望学生にとって夢のある職場です。「働きがい」と「ライフスタイルの充実」を同時に満たせる点で、近年注目度が急上昇しています。
3位:サムスン電子(5.4%)
韓国を代表するグローバル企業で、2年連続トップだったが今年は3位に後退しました。理由として、「競争の激しさ」と「長時間労働」など厳しい社風のイメージが挙げられます。しかし、給与水準は依然として高く、グローバルでのキャリア機会やブランド力は圧倒的にあります。学生にとっては「挑戦の場」ではあるが、バランスを求める若者層の就職観にはやや合致しにくくなっている。
4位:ネイバー(4.7%)
韓国最大の検索エンジン・ポータル企業で、AI・クラウド・コンテンツ事業にも積極的な企業です。人気低下の背景には、「成長分野の競争激化」や「カカオなどとの比較でのイメージ変化」があります。それでもIT・デジタル分野での安定した地位は揺るがず、フレックスタイムやオフィス環境の快適さは学生に依然支持されています。
5位:CJ第一製糖(3.1%)
CJグループの食品事業を担い、「ビビゴ」などグローバルブランドを展開。人気の理由として、「リーディング企業イメージ」が挙げられます。食品・バイオ・健康分野での市場支配力が強く、業界内の安定性を象徴しています。特に自然科学・生活科学系専攻の学生にとっては、自分の学びを生かせるフィールドとして注目を集めています。「生活を支える産業でキャリアを積む」という安心感も人気の要因です。
6位:現代自動車(2.6%)/カカオ(2.6%)
- 現代自動車:EV・自動運転・水素車など革新をリードする企業の一つです。グローバル展開や技術革新への投資が学生にとって魅力とされています。しかし、伝統的な製造業らしい厳しさがあり、敬遠される側面があります。
- カカオ:メッセンジャーアプリである「KakaoTalk」を基盤に、金融・モビリティ・コンテンツに拡大しています。スタートアップ的なカルチャーと柔軟な働き方が学生に好まれる一方、経営不安や規制問題でやや勢いに陰りがでています。
8位:LG電子(2.2%)
家電・電子機器で世界的な存在感を持ち、韓国国内では「安定・堅実」の代名詞とされています。サムスンに比べて規模は小さいが、ワークライフバランスや働きやすさで一定の評価があります。「堅実にキャリアを積める場」として、堅実志向の学生に選ばることが多いです。
9位タイ:サムスン物産(1.8%)/オットゥギ(1.8%)
- サムスン物産:建設・商社・リゾートなど幅広い事業を持ち、グループの中核企業。給与やブランド力が安定志向の学生に魅力な企業です。
- オットゥギ:韓国の食品メーカー。初のトップ10入りを果たした点が注目。インスタント食品や調味料など、韓国人の食卓に密着した企業で「親しみやすさ」「安定性」が評価された。SNSなどで「温かい企業イメージ」が広まったことも背景とされる。
日本企業への示唆と比較視点
韓国の「就職したい企業ランキング」に表れた傾向は、日本企業にとっても多くの示唆を含んでいます。特に次の4点は比較的導入しやすく、日本の採用競争力を高めるうえで有効と考えられます。
透明性のある報奨制度
韓国の若者は「成果がどのように評価され、報酬につながるか」というプロセスの明確さを重視しています。日本企業においても、従来型の年功序列や曖昧な評価よりも、個々の努力やスキルアップを公正に反映する仕組みが求められています。これにより、若手社員の定着率やモチベーション向上につながるでしょう。
柔軟な働き方の推進
韓国でもCJ ENMやIT企業のように柔軟な働き方を取り入れる企業が人気を集めています。フレックスタイムやハイブリッド勤務、副業容認など、働き方の選択肢を広げることは、世代を問わず多様な人材を引きつける力になります。
ブランド戦略の強化
若者は就職の際、「大手企業だから安心」という考えから離れ、企業が掲げる社会的価値やビジョンに共感できるかを重視するようになっています。韓国ではオットゥギのように「親しみやすい企業イメージ」で評価を上げる事例もあります。日本企業も「環境対応」「社会貢献」「地域社会との共生」といったテーマを前面に打ち出すことで、採用市場での存在感を高められるでしょう。
福利厚生の充実
給与だけでなく、住宅手当、教育支援、健康維持のための制度、キャリア形成支援など、生活全般を支える福利厚生が重要になっています。韓国でCJ ENMが評価された背景には、働く人のライフスタイルをトータルで支える制度の整備がありました。日本企業でも「長く安心して働ける仕組み」が若者の志望動機を強化します。
韓国と日本はともに少子高齢化が進み、優秀な若手人材の獲得が一層難しくなっています。韓国の事例は、給与や安定だけではなく、働きやすさと共感できるビジョンを持っている企業が選ばれることを示しており、日本企業も採用戦略を見直すうえで参考にできる部分が多いと言えるでしょう。
まとめ
韓国の大学生が選ぶ就職人気ランキングは、単なる企業の序列を示すだけではなく、若者世代の価値観の変化を反映するものです。努力や成果が公正に評価され、かつ働きやすい環境を整えている企業こそが、次世代人材を惹きつけています。こうした動向を踏まえ、日本企業も自社の採用力を高めるために制度改革やブランド戦略を一層強化していく必要があるでしょう。
参考文献
- https://www.chosun.com/economy/economy_general/2025/07/28/3H2VMXHH5FDBPCVTFI2DEHVB6U/?outputType=amp
- https://ssd.skhynix.com/jp/about_us/
- https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/0501/5265bb707a5e6e3e.html#:~:text=%E9%9F%93%E5%9B%BD%E6%94%BF%E5%BA%9C%E3%81%8C%E6%89%93%E3%81%A1%E5%87%BA%E3%81%97%E3%81%A6,%E3%82%82%E4%BC%B8%E3%81%B3%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%BF%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82