
近年、韓国の若者の就職観には、「就職を先送りする慎重さ」と「働くなら成果主義を求める合理性」という二つの相反するように見える特徴が浮かび上がっています。この矛盾は、自己実現と公正な評価を両立させたいという価値観が反映されています。彼らの就職観を正しく理解しなければ、日本企業が韓国人材を採用した際に定着につながらないリスクも高まってしまいます。本記事では、韓国Z世代の特徴的な就職観を整理し、日本企業が採用戦略を考えるうえで押さえておきたいポイントを紹介します。
7割が就職活動をしていない背景

KOREA WAVEの調査によると、韓国の20代の約7割が上半期に一度も就職活動を行っていないことが明らかになりました。その背景として、依然として厳しい雇用環境や激しい競争、そして大企業と中小企業の待遇格差があります。若者の多くは「有名企業に就職したい」という意識を持ち、短期的に安定を求めて妥協するのではなく、自分に最適な企業を見極めるために就職を先延ばしにする傾向が強まっています。
韓国Z世代は「安定」よりも「成長」や「やりがい」を重視し、長期的なキャリア形成を優先する姿勢が特徴です。実際、韓国雇用省の調査では、19〜34歳の87%が「賃金や福利厚生が良ければ企業規模は関係ない」と答え、63%は「ワーク・ライフ・バランスをより重視する」と回答しています。つまり、企業名や安定性よりも生活の質や職場環境を優先する価値観が浸透しているのです。
さらに、20代の83.2%が「転職を考えている」と答えており、「とりあえず入職して、より良い条件があれば転職する」という“無限転職”の傾向も強く見られます。加えて、従来は敬遠されがちだったブルーカラー職への関心も高まっており、報酬性や技術習得、AIに代替されにくい点が評価され、ブルーカラー職を支持するZ世代は58%に達しています。
休暇より成果報酬を重視する姿勢

韓国のZ世代が望む福利厚生についての調査では、「週4日制」などの休暇制度よりも「業績給」など成果に応じた報酬が高く評価されていることが明らかになっています。彼らは「働くならば正当に成果を認められたい」「努力が報われる仕組みを重視したい」という姿勢を強く持っており、年功序列や一律昇給といった日本型の従来文化には満足しません。そのため、日本企業が韓国人材を採用する際には、報酬制度の仕組みや成果がどのように評価につながるのかを具体的に説明することが効果的です。
進学社キャッチの調査によると、韓国Z世代は就職先を選ぶ際、応募意思を平均5分以内に判断しており、最も重視するのは「初任給・年俸」(39%)です。また、応募前に81%が「企業情報を調べる」と答えており、その際に特に注目されるのは「現職者のレビュー」(32%)、「初任給・年俸」(22%)、「財務情報」(17%)といった内部の透明性です。単なる給与水準だけでなく、職場環境や実際に働いている人の声が信頼できる判断材料となっています。
成果中心の評価制度には72%が賛成しており、「成果を重視した公正な評価」や「年次に関係なく早期昇進が可能」といった点が支持されています。一方で、「社内競争の激化」や「評価基準の曖昧さ」への懸念も根強く、成果主義への期待と不安が共存していることが分かります。興味深いのは、希望年収に達していなくても「職務内容が自分に合えば入社する」と答えた人が90%にのぼる点です。これは、韓国Z世代が「給与額の多寡」だけで就職を決めるのではなく、自身のキャリア適性や成長性を重視し、やりがいを感じられるかどうかを優先していることを示しています。
Z世代の矛盾と特徴

この二つの傾向を合わせて考えてみると、「就職を急がない」という慎重さと、「いざ働くとなれば成果主義を求める」という即物的な志向という矛盾が浮かび上がります。ただし、この矛盾は単なる気まぐれではなく、自己実現と公正な評価を同時に満たしたいという欲求の表れだと考えられます。従来の世代が「まずは就職して経験を積む」ことを重視したのに対し、Z世代は「経験よりも自分に適した環境で実力を発揮すること」を優先しているのです。慎重にじっくり選びたい一方で、提示された条件には即断する――この両面性こそ、Z世代が「自己実現」と「公正評価」を強く追求していることの象徴といえるでしょう。彼らは自己実現として「適性・成長・納得のいく職場環境」を重視し、ミスマッチを避けるために就職を先送りする一方、公正性・成果評価に関しては、明示的な報酬やキャリア評価が提示されれば即座に応募・判断する傾向を示しています。
まとめ
韓国Z世代は、就職を先送りするほど企業選びに慎重でありながら、いざ働くとなれば成果に基づく報酬や評価を強く求めるという、一見矛盾したように見える価値観を持っています。これは気まぐれではなく、「自己実現」と「公正な評価」を同時に追求する姿勢の表れです。
日本企業がこの世代の採用で成功するためには、
① 採用段階で「成長機会」や「キャリアの透明性」を明示すること
② 年功ではなく成果を反映する評価・報酬制度を具体的に説明すること
③ 働きやすさや公正性といった職場文化を示すこと
が不可欠です。これらの取り組みによって、韓国の優秀な若手人材を惹きつけ、長期的な定着につなげることができるでしょう。
参考文献
- 韓国・就職を先送りする20代……10人中7人が「上半期に一度も応募せず」(KOREA WAVE) – Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/e888fc29f34475ac47cf430d778439c0eabd2607 - 韓国Z世代が選んだ最高の福利厚生は「週4日制」よりも「業績給」(KOREA WAVE)
https://u.lin.ee/jvdNV86?mediadetail=1&utm_source=line&utm_medium=share&utm_campaign=none - https://www.newsis.com/view/NISX20250818_0003292848
- https://www.1conomynews.co.kr/news/articleView.html?idxno=42739
https://www.donga.com/news/Economy/article/all/20250731/132102652/2- https://news.unn.net/news/articleView.html?idxno=580871