韓国の「本棚」は若者の心の叫びである
韓国の若手ビジネスパーソン、とりわけMZ世代(1980年代半ば〜2000年代前半生まれ)の価値観はここ数年で劇的な変化を遂げ、「公正」「効率」「自己成長」がキーワードとなっています。彼らが何を考え、どのような組織を求めているのか。そのヒントは、ソウルの大型書店「教保文庫」のベストセラーコーナーに如実に表れています。本記事では、韓国の最新書籍トレンドを切り口に彼らの本音を解剖し、日本企業が有能な韓国人材を惹きつけ、定着させるための具体的なマネジメント方法を提案します。
「ゴッド生(God-saeng)」:不安を「ルーティン」で封じ込める若者たち
象徴的な書籍: ハル・エルロッド『ミラクル・モーニング』、ジェームズ・クリアー『Atomic Habits』
韓国のSNSやYouTubeで今、最も目にする言葉の一つが「ゴッド生(ゴッセン)」です。これは「God(神)」と「人生」を組み合わせた造語で、朝早く起き、運動をし、勉強を欠かさない「完璧で勤勉な人生」を指します。なぜ彼らはここまで自分を追い込むのか。それは、不動産価格の高騰や激しい就職競争といった「自分の力ではどうにもならない社会不安」への反動と捉えることができます。外の世界が不確実だからこそ、自分の時間や習慣だけは完璧にコントロールしたいという切実な欲求が根底にあるようです。
マネジメントのヒント
プロセスの可視化
成果だけでなく、そこに至るまでの努力や工夫を認められることを好みます。OKR(目標と主要な結果)を用いて、進捗を数字で追い、週次でフィードバックを行う体制が、彼らの「成長実感」を刺激することをオススメします。
時間の主権
朝活や自己啓発の時間を確保できるフレックスタイム制やリモートワークは、単なる福利厚生ではなく「人生のコントロール権」を認める重要なメッセージとなります。
「私は私のままで生きる」:心理的安全性の絶対視
象徴的な書籍: キム・スヒョン『私は私のままで生きることにした』、ペク・セヒ『死にたいけどトッポギは食べたい』
韓国の若者は、日本の若者以上に「他人の視線」や「学歴社会のプレッシャー」に晒されてきました。その反動として、数年前からエッセイ分野では「自分を愛する」「無理をしない」というテーマが爆発的な人気を博しています。これらの本が支持されるのは、職場での上下関係や過度な競争に疲れ果てた若者が多い証拠です。「会社のために自分をすり減らすのは美徳ではない」という価値観が標準となり、精神的な健康(メンタルヘルス)への意識が非常に高まっています。
マネジメントのヒント
心理的安全性の構築
上意下達のコミュニケーションは、彼らを萎縮させ、早期離職を招きます。「失敗しても攻撃されない」「疑問を自由に口にできる」環境であることを、リーダーが明示し続ける必要があります。
感情へのアプローチ
1on1ミーティングでは、業務の進捗確認だけでなく、「今の気分はどうか」「チーム内で困っていることはないか」といった感情面への配慮が不可欠です。彼らは「自分を一人の人間として尊重してくれるリーダー」に対して、強い信頼とエンゲージメントを示します。
「Money Rush」と「N Job」:会社は「プラットフォーム」である
象徴的な書籍『トレンドコリア』シリーズ(キム・ナンド著)、『Saynoの教え』(資産形成のバイブル)
今、韓国のビジネス書コーナーで最も勢いがあるのは「資産形成」「副業」「自己ブランディング」の棚です。「一つの会社に一生尽くしても、家は買えない」という現実的な諦めから、彼らは会社を「唯一の居場所」ではなく「自分の市場価値を高めるためのプラットフォーム」と捉えるようになりました。YouTubeでの発信や投資、副業(N job)に積極的なのは、組織への依存を避け、生存戦略を多層化するためです。
マネジメントのヒント
キャリアの武器の提示
「この会社で3年働けば、どのような市場価値(スキル)が身につくか」を、採用段階から明確に言語化して伝えることも重要です。
副業・自律への寛容さ
副業を一律禁止にするのではなく、会社での業務が個人のキャリアにどう相乗効果を生むかを対話する姿勢が重要です。個人の成長を応援する姿勢こそが、結果として「この会社に長くいたい」と思わせる逆説的な効果を生みます。
「タイパ」を極める学びのスタイル:情報のデジタルトランスフォーメーション
トレンド: オーディオブック「ミリーの書庫」、要約アプリ、AIを活用した情報収集
韓国は世界屈指のデジタル先進国であり、その情報の消費スピードは極めて速いです。「深くじっくり読む」ことよりも「必要な情報を瞬時に得て、すぐに活用する」効率性を重視します。これは、限られた時間で最大の結果を出したいという「タイパ(タイムパフォーマンス)」重視の現れです。
マネジメントのヒント
教育のオンデマンド化
分厚いマニュアルや長時間の座学研修は、彼らのモチベーションを著しく下げます。5分程度の動画、図解されたWiki、検索可能なナレッジベースなど、必要な時に必要なだけ学べる環境を整えてください。
双方向のアウトプット
単に情報を与えるだけでなく、Slackなどのチャットツールで「学んだことを共有し、フィードバックし合う」文化を作ることが、彼らの情報感度を活かす近道です。
まとめ:韓国人材が日本企業に求める「新しい契約」
韓国人材は、自分の価値観が尊重され、正当に評価され、そして何より「成長できる環境」を求めています。韓国のベストセラーが教えるのは、彼らが決して「わがまま」なのではなく、「自分の人生に対して極めて誠実で、合理的である」ということです。日本企業が彼らのマネジメントで成功するためのキーワードを以下の3つにまとめました。
- 透明性: 評価基準や意思決定の背景をオープンにする。
- 共感: 組織論ではなく、個人の幸福にフォーカスした対話を行う。
- 成長の機会: 会社を、個人のキャリアを加速させる最高のフィールドとして提供する。
優秀な韓国人材を惹きつけるために、今一度、企業情報を文言や説明会で彼らに伝える内容を再考してみる、面接での対話内容を検討するなどのきっかけになると幸いです。