韓国MZ世代が関心を寄せる「企業の社会的責任」とは?

近年、韓国では、企業のCSR(企業の社会的責任)やESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みに対する関心が高まっています。特に、1980年代半ば〜1990年代前半生まれの「ミレニアル世代」と、1990年代後半〜2000年代前半生まれの「Z世代」を合わせた「MZ世代」と呼ばれる若年層の間で、こうした傾向が強まっているようです。

これまで企業を評価する際に重視されてきたのは、給与や福利厚生、企業の知名度といった条件でしたが、最近では企業の価値観や環境・倫理への配慮といった「社会的な姿勢」にも、企業を選ぶうえで注目されるようになっています。

韓国MZ世代が望む働き方 – 韓国人採用ナビ

本記事では、韓国のMZ世代がCSRやESGの取り組みをどのように受け止め、企業選びにどのような影響を与えているのか、調査データや具体的な事例をもとに紹介していきます。

韓国MZ世代が重視するCSR/ESG分野

韓国のMZ世代がESGに関心を寄せていることは、複数の調査結果から明らかになっています。なかでも特に高いのが「環境(E)」への関心です。韓国投資証券が2022年に行った調査によると、「ESGのうち最も関心がある分野」として「環境」を挙げた人は全体の47%。これは「社会(S)」(29%)や「ガバナンス(G)」(15%)を大きく上回る結果でした。

同じく2022年に大韓商工会議所がMZ世代380人を対象に実施した「MZ世代が考えるESG経営と企業の役割」調査では、ESG経営を推進している企業の製品に対して、「価格が高くても購入したい」と答えた人がが64.5%に達しました。さらに、「企業に求める役割」として最も多かった回答は「透明で倫理的な経営の実践(51.3%)」で、「雇用の創出(28.9%)」を大きく上回りました。このことから、企業の社会的な姿勢に注目が集まっていることがうかがえます。

また、具体的な消費行動にも変化が見られます。たとえば「ラベルレスのペットボトル(41.1%)」「電気自動車・水素自動車(36.3%)」など、環境に配慮した製品を意識的に選ぶMZ世代が増えていることがわかりました。ESGへの関心は、MZ世代の消費者の行動やブランドイメージに強く結びついてきているようです。

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SNSによる企業イメージの形成

SNSの存在も、こうした企業イメージの形成に大きく関わっています。韓国のMZ世代の多くはInstagramやYouTubeなどを通じて企業のCSRやESGへの取り組みを日常的にチェックしています。企業が行っている社会貢献活動や環境対策がSNS上で拡散されることで、企業の印象が短期間で大きく変化することもあります。

韓国では、2021年はじめ頃から「돈쭐(トンチュル)=良いことをした企業には積極的にお金を使って応援する」という新語が広まりました。これは、Z世代が企業の倫理的姿勢を重視し、積極的に評価・消費に結びつけていることを象徴する表現です。一方で、不祥事や倫理的な問題を起こした企業には、SNSを通じて「不買運動」が広がることもあります。MZ世代にとって、企業の価値観や誠実さは、ブランドの信頼度や購買意欲に直結する重要な判断基準になっていると考えられます。

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また、多様性やジェンダーに関する意識も高まっており、韓国社会においては「ダイバーシティ&インクルージョン」や「ジェンダーギャップ」といったテーマがメディアやSNSで頻繁に取り上げられています。たとえば、毎年夏にソウルで開催される「ソウル・クィア・カルチャー・フェスティバル」のようなイベントや、外国籍のインフルエンサーによる発信などをきっかけに、こうした話題に関心を持つMZ世代が増加していると言われています。

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CSR活動が就職先選びに与える影響

このようなMZ世代の関心は、商品選びやブランドイメージだけでなく、就職先選びにも反映されています。近年の韓国における企業選びでは、給与や福利厚生といった条件面だけでなく、企業の社会的意義や環境への貢献度なども、重要な判断軸として意識されるようになってきています。企業にとってCSRやESGの取り組みは、単なる実施にとどまらず、「社内外にどのように伝えるか」までを含めた戦略として捉えることが今後より重要になっていくと考えられます。

特に採用活動の場面では、求職者が企業の姿勢を敏感に見極めていると言われており、伝え方の質が採用成果に影響を与えることもあるようです。

まず求められるのは、CSRやESGを軸にした明確なメッセージの発信だとされています。たとえば、ジェンダー平等、ダイバーシティ経営、人材育成といった取り組みを、具体的な事例を交えながら伝えることで、自社の価値観や姿勢がより伝わりやすくなると言えるでしょう。また、取り組みの実効性や社内浸透も重要なポイントとされます。CSRやESGの方針が現場レベルまで共有されていない場合、理想と現実のギャップによって、ミスマッチや早期離職を招く可能性があるとも言われています。そのため、幹部層を含む社員全体への意識づけが欠かせないようです。

さらに、経営戦略と採用戦略の整合性も大切な視点とされています。求職者に対しては、単に取り組み内容を列挙するのではなく、「なぜその取り組みを行っているのか」「どのように実現しているのか」といった背景やプロセスを丁寧に伝えることが望ましいとされています。こうした取り組みの積み重ねによって、求職者からの共感や信頼が得られやすくなり、結果として持続的な人材確保にもつながる可能性があると考えられます。

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まとめ

韓国のMZ世代は、給与や安定性だけでなく、企業の姿勢や社会的責任を重視する傾向が強まってきています。ESGやCSRへの関心は、日常の消費行動はもちろん、企業に対する信頼感や就職意欲にも大きく影響していると考えられます。一方で、企業の社会貢献への取り組みが十分に伝わっていない現状もあり、ただ取り組むだけでなく、それをどう伝えるかが問われている時代とも言えそうです。韓国人材の採用を検討する企業にとっては、こうしたMZ世代の価値観を理解し、社会的責任への姿勢や実践内容を積極的に発信していくことが、共感を得る第一歩になるでしょう。