韓国企業で急拡大するEAPとは?日本企業の“採用力”を高めるポイント

韓国では社員のメンタルケアを重視する企業が増え、特にZ世代の就活生は心の健康を守れる職場文化に関心を持っています。最近では、心身の健康サポートを求める声が高まっており、福利厚生や心理支援制度が採用選びの判断材料になることもあるそうです。今回は、こうした背景を踏まえ、EAPや心理的サポート制度を採用で活かすポイントをご紹介します。

EAPー企業が社員のメンタルヘルスを支えるための専門的な支援制度

EAP(Employee Assistance Program/従業員支援プログラム)とは、企業が社員のメンタルヘルスを支えるための専門的な支援制度です。カウンセリングやストレスチェック、外部専門家との連携などを通じて、社員が抱える心理的な不調を早期に発見し、業務の生産性維持や離職防止を目的としています。

近年、韓国では導入が加速しており、ストレスの多い競争社会を背景に、社員の心の健康を守ることが企業にとって重要であると考えられているようです。EAPは単なる福利厚生ではなく、企業の信頼性を示す要素として、企業側だけでなく学生にも注目されています。

日本でも導入は進んでいますが、韓国ほど浸透度は低い印象で、韓国人材を採用する日本企業にとって理解しておくべき重要な制度と言えるでしょう。

韓国の求人者の視点と韓国企業での導入状況

韓国のAIマッチング求人コンテンツプラットフォームCatchがZ世代の求職者1,770人を対象に「仕事とストレス」に関する調査を実施した結果、Z世代の求職者の90%が職場で心身の健康サポートを受けるべきだと考えているそうです。サポートが必要な理由として、34%の人が「心身ともに健康であれば仕事の効率が向上するため」と回答し、16%は「心身の健康に対する社会の関心の高まり」と答えています。

また、Z世代が好む福利厚生(複数回答)では、心理療法や瞑想など心理関連の福利厚生が39%で、運動・健康関連(45%)、休息関連(43%)に続いて3番目となっています。最近では、求職者や社員の間で心身の健康への関心が大きく高まっていることがわかります。

このように、韓国人のZ世代の間では、会社の心理的サポートが重要視されつつあり、日本企業が採用説明の場でEAPや心理的サポート制度の導入を明確にアピールすることは、韓国人人材にとって大きな好印象となると考えられます。

韓国では、EAPの導入がここ数年で一気に広がっています。韓国EAP協会が2025年に発表した報告書によると、1000人以上の大企業では導入率が63.3%に達し、多くの企業で取り組まれている制度になっています。導入が進んだ背景には、コロナ以降、個人レベルで抑うつや不安への関心が高まったことに加え、組織レベルでも職場内のハラスメント防止やストレス対策の必要性が大きくなったことを受け、EAPサービスの需要は急増しましたようです。

NAVER、LG、サムスンなど主要企業は、専門カウンセラーの常駐や外部機関との連携など、より高度なサポート体制を整備しているそうです。また、最近では中小企業でも導入が進み、採用面で学生へのアピールポイントとなっているようです。

韓国企業と日本企業との比較

日本でもEAPを導入している企業はありますが、韓国と比べると利用率や浸透度には大きな差があるようです。CHRが厚生労働省の調査をもとに算出したデータによると、2023年時点で約35.8%の事業所がEAPを整備しているとされています。しかしながら、実際には制度の存在を知らない社員も多く、利用につながらないケースが少なくないでしょう。認知率・利用率が低い要因として、「相談しにくい雰囲気」や「メンタルケアを利用すると評価に影響するのでは」という心理的ハードルが残っていることが挙げられます。

また、日本ではEAPが福利厚生の一部として扱われることが多く、組織文化として浸透していない場合が多いでしょう。そのため、日本企業が韓国人材を採用する際には、自社のメンタルケア制度をどのように活用し、社員が安心して利用できる環境を整えているかを明確に示すことで韓国人人材にアピールすることができるでしょう。

採用力強化のために日本企業が行うべき取り組み

韓国企業ではEAPが企業の採用時のアピールポイントの一部として認識されつつあります。メンタルヘルスへの関心が強い韓国人人材を取り込むには、企業のサポート体制や具体的な導入の実例を採用発信で示すことが重要です。ここでは、日本企業がどのような伝え方や見せ方をすれば、韓国人人材の心理的な安心と信頼を得られるのかをご紹介します。

①説明会で心身の健康サポートを強調

日本の採用現場では、休暇日数や産休・育休制度についての質問が多く見られます。一方、韓国の求職者層は、そういった点に加えて心身の健康サポートやメンタルケア制度の実用性にも関心があります。そのため説明会では、福利厚生の中でも心身の健康サポートを厚めに説明すると、企業への関与度向上につながるでしょう。

②実績を数字で見せる

「メンタルケア導入あり」や「手厚サポート」という表現だけでは、内容が抽象的明ではないため、韓国人人材に伝わりにくい可能性があります。そこで、採用資料や説明会で、相談件数(例:月平均40名)や利用率(例:年間20〜30%)などの数値を公開することにより、「制度がある」から「制度が使える」という印象へ変わると考えられます。

③目的は能力支援に

メンタル相談への心理的ハードルを考慮し、匿名・オンライン可・評価に影響しないことを明言すると安心感が高まるでしょう。さらにEAPなどのメンタルヘルスケアに関する取り組みをマイナスなトラブルではなく、業務効率化やパフォーマンス維持のサポートとして伝えることで、従業員の能力発揮を後押しする前向きな企業姿勢として受け取ってもらえるでしょう。

まとめ

韓国ではEAPをはじめとした心理的サポートが企業文化として定着し、就職活動を行う若手世代にとっても企業選びの重要な判断基準になっています。一方、日本企業は制度自体は存在しても、十分に伝えきれていないケースが多いのが現状です。韓国人人材を採用する際は、自社のメンタルケア制度や利用のしやすさを積極的に発信することで、「安心して働ける会社」という信頼を構築できると考えられます。EAPやメンタルヘルスケアは韓国人人材の採用にあたって、福利厚生に留まらず、企業の“採用力”を高める有効なツールになり得るでしょう。

【参考文献】

T-PEC cooperation:EAP(従業員支援プログラム)とは?サービスのメリットや選び方をわかりやすく解説【医師監修】

ジディネット:「精神健康がまもなく組織の成果」…EAP、企業福祉標準になった

MKビリアッドニュース:聖心堂、役職員心理相談プログラム導入

CHR:EAP導入の流れやポイント!導入後の問題点と解決方法を解説

日本の人事部:従業員支援プログラムEAPが利用されない4つの原因と改善策

The Asia business diary : Z世代の求職者の40%が燃え尽き症候群を経験…「初任給が低くてもストレスの少ない企業を好む」