
韓国市場では、近年さまざまな日本企業が注目を集めています。食品や小売からファッション、さらにはフィンテックまで、幅広い業界で日本ブランドが韓国で受け入れられ始めています。これらの動きは単なるビジネスチャンスにとどまらず、韓国人が日本企業や日本文化にどのような期待を抱いているかを理解する手掛かりとなり、採用活動にも応用できる知見となります。
本記事では、韓国市場での日本企業の成功事例をもとに、韓国の若手人材、特にMZ世代が企業やブランドに何を求め、どのような価値観でキャリア選択を行っているのかを分析し、採用戦略に活かすためのポイントを紹介します。
ドンキホーテ:体験価値を求める韓国消費者

2025年7月、ソウル汝矣島の百貨店「ザ・現代ソウル」でドンキホーテのポップアップストアが催されました。開店前の午前8時にはすでに行列ができ始め、午前11時には待機人数が1,200人を超えて当日の入場受付が打ち切られ、初日から異例の盛況となったそうです。店内には日本のドンキホーテと同じように、生活用品、化粧品、食品、飲料、医薬品といった多彩な商品が並び、特にプライベートブランド「ジョネツ」や、キャラクター「ドンペン」と韓国GS25のキャラクターがコラボした限定商品が2時間で完売するほどの人気を集めたそうです。この熱狂の背景には、「安さ」だけでなく、“日本の生活文化を丸ごと体験できる” という価値が韓国消費者を引きつけた点があります。ポップアップを訪れた人々は、日本によく訪れる人から「初めてドンキを見に来た」という若年層まで幅広く、単なる買い物以上の「イベント」として受け止められていました。
日本ファッションブランド:韓国を「テスト市場」とする戦略

韓国のファッション市場は、アジアの中でも流行の発信地として注目されています。そのため、近年は「ビームス」や「ヒューマンメイド」をはじめとする日本ブランドが次々と韓国進出を果たしています。特に2025年は、ソウルを拠点にしたポップアップやコラボ展開が活発化しています。韓国市場での挑戦はブランドにとって単なる進出ではなくグローバル展開へ向けての“テストベッド”としての意味も持ちます。韓国の消費者はトレンドに敏感で、SNS拡散力が非常に強いため、韓国で成功することでアジア全域やグローバル展開へのきっかけとなるのです。実際、韓国で注目を集めたアイテムがそのまま中国や東南アジアをはじめ世界中で人気を集めるケースも増えています。この事象の背景として、韓国MZ世代がファッションを「自己表現の手段」として重視している点があります。ブランドの「ストーリー性」や「国際的な発信力」が共感を呼び、購入だけでなく“文化に参加している”感覚を与えるのです。
PayPay:観光・フィンテックで広がる日韓接点

日本のQR決済サービス最大手「PayPay」が、2025年9月に韓国へ本格進出します。中国企業であるアリペイプラスとの連携により、韓国国内200万以上の加盟店でそのまま利用可能になり、日本人観光客にとって韓国へ訪れる際の最も身近な決済手段へと成長する見込みです。韓国を訪れる日本人観光客は2024年以降急回復し、322万人を突破しました。PayPay導入により、両替やプリペイドカードの煩わしさがなくなり、コンビニや市場、観光名所でより快適に買い物できる環境が整います。これは観光消費拡大だけでなく、韓国の小売・飲食業に新たなビジネスチャンスをもたらします。また、PayPayにとって韓国進出は初の海外展開であり、台湾・中国・シンガポール・米国へ広がる“第一歩”とされています。韓国市場を成功事例として確立できるかどうかが、今後のグローバル戦略を左右すると言えるでしょう。
韓国市場から見える採用への示唆

韓国MZ世代の消費行動や企業評価の特徴は、就職先選びの決め手にも強く影響しています。では、彼らは何を重視しているのでしょうか。
1. 経験価値を重視
ドンキホーテの事例が示すように、韓国の若者は単なる「商品」ではなく “ここでしか得られない体験” に価値を置きます。採用においても、「成長の機会」や「独自の企業文化」が強い魅力となります。
2. トレンドの発信地で働く誇り
日本ファッションブランドの進出は、韓国の若者が “流行をリードする環境” や “グローバルに認められるブランドの一員であること” に誇りを感じることを示しています。企業が「韓国を起点に世界へ挑む姿勢」を発信することは、「この会社でなら自分のキャリアも世界に広がる」 という期待感を与える武器になります。
3. 社会的意義とグローバル展開への共感
PayPayのフィンテック事例のように、社会インフラを支える実感 や 国際的に拡張可能なサービスに関わる誇り は、MZ世代にとって大きな動機づけとなります。特にグローバル志向の強い人材にとって、 “新しい市場を切り開く挑戦” こそがキャリア選択の決め手となるのです。
まとめ
韓国で支持を集める日本企業は、単なる商品販売にとどまらず、体験価値・グローバル性・信頼・革新性を提供しています。これらはそのまま、韓国人が職場やキャリアに求める価値観と重なります。したがって、日本企業の採用担当者は、現地のトレンドを正しく理解し、自社の強みと結びつけて発信することで、韓国人材をより効果的に惹きつけることができるでしょう。
参考文献:
